2017-10

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これは諸国一見の物書きにて候

 実は恥ずかしながら今年からお能のお稽古を始めました。

 昔から習いたかったものの、なかなか機会もなくそのままになっていたのが、『幽』十九号「能楽特集」の取材で温容に接することとなった安田登さんに紹介の労をとっていただき、シテ方観世流の能楽師・長谷川晴彦さんに入門したのです。

 本日はそのお稽古でして、相変わらずの物覚えの悪さと鈍くささを先生にご披露してきたというのはさておき、お稽古中に印象深い話を伺ったので、完全放置プレイだったBlogを紐解き、書き留めることにしました。
  
 お能の歌の部分である謡(うたい)または謡曲(ようきょく)がいわゆる「候文」であることはご存知かと思います。
 本日のブログタイトル「これは諸国一見の物書きにて候」というのは、夢幻能冒頭の定番台詞の質の悪いパロディなわけですが、とりあえずはまあこんな感じで、語尾は多くが「候」になる。

 で、実際に候文を口に出してみると、これが存外言いづらいのです。
 結構噛む。もちろん主たる原因は私の練習不足なわけですが。
 謡本の字を目で追いながら口が全くついていかず、なにがなんだかわやになっている私の様子を見かねた長谷川先生、しばし沈思黙考した末、こうおっしゃいました。

「候というのは単なる語尾ではなく、発する側の精神を表している。能動より受動、主体より客体、一歩引いた感じの精神が『候』という言葉だと思います」

 実際にはもっと言葉を尽くしてお話くださったのですが、要約するとこんな感じでした。
 そして、私は、その意味の深さに「むむう」と唸ってしまったのです。

 この「そうろう」という語尾、もとは口語の謙譲語や尊敬語として使われていたものであり、そもそもの語義に相手を敬う気持ちが含まれている。
 ですから、「そうろう」と発音するときには、ただ音をなぞるだけではなく「そういう気持ちになって」発音するとうまくいきますよ、というのが先生の御指導の内容でした。
 たしかに、私は単なる音として言っていた。それをしっかり指摘されてしまいました。
 まだまだ言葉を追うだけで必死というのが正直なところではあるのですが、それも心構えができていない言い訳にはなりません。
 だいたい、私の心に他者に対する敬意が薄いから言葉にも込められないのであって、自らの傲慢がこんなところに出てくるものかと、顔から火が出る思いをしました。

 いやはや、やっぱり伝統芸能というもの、そしてそれを担っている方は、深いです。
 勉強になりました。
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