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花房観音『楽園』

 花房観音さんの新刊『楽園』を読んだ。


楽園楽園
(2014/04/09)
花房 観音

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 公式のあらすじは、こうだ。

京都でも特別な意味を持つ街、「楽園」と名付けられたその一帯は、かつて男が女を抱きに訪れる場所だった。お茶屋の跡に建てられた白い壁のアパート「楽園ハイツ」そこに住む6人の女たちの間で静かに熟成される、うぬぼれ、疑い、焦り、嫉妬。京都の川沿い、かつての花街でひとりの女が美しく変身した。戸惑う隣人たちが行き着く先は楽園か、地獄か?




「かつての花街でひとりの女が美しく変身した」と書かれている。
 だが、「かつての花街で寡婦になった女が狂い咲きし始めた」が正確なところだろうか。

 夫を亡くして身も世もない風情だった四十五歳のみつ子が、突然高校生の娘顔負けの若作りをするようになり、同じアパートに住む女達の疑念や嘲笑を買うようになる。
 未亡人が美しくなるというのはよくある話だ。しかし、変化が急激かつ常軌を逸しているなら、その陰には男がいる。
 そう、女達は、つい先日まで自分達と同じ「冴えない女」だった女が男を得たこと、そしてどうやら自分達が知らないどこかへ行きかけていることを敏感に嗅ぎつけ、心をかき乱されていくのである。

 登場人物の多くはいわゆるアラフォーと呼ばれる世代。
 「女」としては引退の年齢が迫ってきている。だが、みつ子の変化がなければ、引退勧告が目前にあることに気づかぬふりをしたまま暮らせたはずだ。
 著者は、そんな女達、つまりはアラフォー女の大半に「本当にそのままで終われるの? 終わっていいの?」と問いかける。そして、その問いから目を背けさせないよう、六人のサンプルを用意した。

温井朝乃(47) パート勤めの主婦。二人の子供は独立。かつかつの生活ながらも自分は幸福と思うことにしている。
唐沢マキ(38) 夫は単身赴任中。不妊症のため子供はいない。近所の百均でアルバイトをしている。
寺嶋蘭子(42) 薬剤師。独身。年齢のわりには若く見え、自身も身ぎれいにするよう心がけている。
和田伊佐子(44) 主婦。リストラされ失業中の夫とは数年前に結婚。いわゆる略奪婚。
田中芽衣奈(17) 高校生。登場人物の中では唯一容姿に恵まれている。父の事故死によって生活が一変する。
田中みつ子(45) 事故で夫という頼みの綱を突然断たれた専業主婦。

 専業主婦、共働き、別居、独身、死別。
 現代女性なら、このどれかのカテゴリに入るだろう。つまり、必ず「自分」がいる。
 この手法は著者の出世作となった『女の庭』でも使われている。だが、『女の庭』の彼女らが身の内に宿る性的快楽への欲望に翻弄されながらも「今の生活の維持」という最後のラインは死守していたのに比べ、『楽園』の女達は、半ば強制的にその先に送られていくのだ。

 私は、本作を花房小説のひとつの到達点と見た。徹底していやらしさをむき出しにする女たちを決して嫌いになれないのは、彼女たちが真の意味で等身大の女だから。つまるところ「私」だ。男の幻想も女の取り繕いも入り込む隙はない。徹底したリアリズムで書かれた女の姿は、こうまで醜く愛おしいものか。
 また、本作での「性の快楽」はすでに楽しむものではないようだ。人を蝕み、苦しめる。だが、どれほど苦しんでも逃れることはできない。生きている人間、女だから。そして、苦しみの代償には、途方も無い悦びがあることを本能的に知っているから。

 みつ子という道化に対する女達の侮蔑は、ブーメランとなって自身に突き刺さり、壊していく。みつ子の姿を通して自分のコンプレックスが浮き上がる。見ないままにしたかった「女としての人生」を嫌でも意識させられる。そうして、ある女は壊れ、ある女は解放されていく。
 そんな彼女たちの姿を見るにつけ思う。エデンの園、無垢しか許されぬ楽園は、はたして本当の「楽園」なのか。

 この作品は女の人生のリトマス試験紙だ。登場人物の誰にシンパシーを感じ、何に反発するかで、嫌でも自分の人生が見えてくる。
 私の場合、温井朝乃は嘲笑の対象、唐沢マキは理解できず、寺嶋蘭子を哀れに思い、和田伊佐子には胸がすく思いがした。本書を読んで、左記の反応を分析すれば、私という人間のコンプレックスの在処がたちどころに暴かれるだろう。怖い怖い。

 また、この作品は薬でもある。
 「平凡だけど幸せな女」と自認していれば毒に。物足りなさを薄っすらと自覚していれば劇薬に。
 普段から毒にまみれているなら、癒やしの妙薬に。

 禁断の果実は、りんごだという説がある。その色の表紙を持つこの書は、花房観音が女につきつける禁断の果実だ。
 女は誰しもイヴの末裔。「この実を齧ってみる」しか、選択肢はない。


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